知人の鬱

1. かなりお世話になった、あるお店の元店長が2年前鬱になっていたと今しがた知った。彼からは当時、店内の従業員同士間でかねてから半ば抗争状態にあってそれに対処しづらいことを時々聞かされていた。だが、これは当時僕は知らなかったが、さらに、彼のご両親の離婚という突発的な事件のためか、病院で精神的鬱と診断されたとのことだった。
 自分が鬱と診断されたとき、彼は自分がそうなんだと当時納得できなかったそうだ。
 彼はその後お店は辞めた。
 転職して、今の近況を聞いた限りでは精神状況は良くなっているみたいだ。

2. とはいえ、彼のような人間でも鬱になるのだと、改めてこの病気の掴めなさを感じる。
 お店にいた彼は非常に明るかった。彼の配属店でもうまく他従業員とやっていけているようだった。自分より随分と年が離れているのにもかかわらずこううまく人付き合いができていることから、「社交的な人」というのは彼のような人をいうのかなと思ったことさえあった。格好良い人ではないし、学もないような人ではあったのだが、一緒にいて話しやすい、また理解の得られやすい人ではあった。
 一方、当時の僕はといえば、僕もその一員であった彼の所属店の他従業員とは折り合いが付きにくく、いづらくて他店に移籍することになった。後にこの店はかなり様々な、オペレーション上の問題を抱えていると、移籍後に偶々やってこられた立場の上の人から指摘された。この店のおかしさを大々的に自分が移籍前から指摘していたため、この偉い人からそう言っていただくと「我が意を得たり」と当時の僕は喜んだ。
 話がずれた。
 移籍前、まあそういうわけでその店が相当嫌になっていた。あんなところに行きたくねー、あんな連中の顔も見たくねー。日常的にもう、この店のことを思い出すようになっていた。実は大学時代、あることで自分は鬱病と診断されたのだが、その時の精神状況と今のものとが近いなぁと直感的に思っていた。
 そういう中偶々、他店をその所属店とは別に手伝っていて、そこの人々に所属店と自分の精神状況を説明したら、移籍を進められた。移籍という概念自体それまで知らなかったが、説明を聞いて即決断、即相談、そしていろいろと文句を言われたが即実行された。
 一方でこの話題の彼は、僕のように自分の精神状況からくる不都合のために店舗替えが容易くかなえられるような立場の人ではなかった。僕の移籍前からよく店の状況の悪さを聞いてはいた。彼はその後その店から異動し、次の店も異動し、所属3店目にして初の店長となったが、そこは最初の所属店を上回る従業員同士の仲の悪さから来るストレスが彼を待ち構えていたわけだ。当時、彼の口からその店の愚痴が、元々いた店で安心できる人たちに聞かされていた。おそらく、当時の彼は逃げたかったに違いない。が、逃避できなかった。
 そして、話は「1」につながる。

3.
 自分の経験も含め、彼の話から何を学ぶべきか。
 鬱になりそうだなと思ったら、最後は逃げるしかない。自分は逃げたし、今回の彼も結局逃げた。そういうことか。