種の保存の程度

 先日立ち読みしただけで読み終わった本があった。
 その本には、種が保存されてもその文化までもが保存されるわけではないということが書かれてあった。ここで「文化」といったのは僕の表現にすぎず、その本にはどう言われていたのか覚えていない。だが書かれてあったのは、後者の点は例えば、どういうように子育てをするのか、どういうように何を食べるか、といったその種の繁栄につながる基礎が保存されるわけではないということであった。
 これは、クローン技術をもってしてもそのできあがったクローンが単独ではできないことがあることを意味している。
 だから、例えばリョコウバトやマンモスやら、そのミイラなり剥製なりから質の良い細胞が取れてクローンができても、本当に、どういうように振る舞うのかは決して分からないことになってしまったということだ。
 したがって、「絶滅に備えて遺伝子バンクを作っておけばたとえその種が絶滅してしまっても適切な技術を持てば絶滅は免れる」という命題は偽ということになる。
 仮にリョコウバトは近縁種のハトに代わりに子育てしてもらうとしても、そうして育て上げられたリョコウバトがかつてのそれと本当に同様に振る舞うかは永久に分からない。過去の文献等で照らし合わせて、リョコウバトクローンの行動を観察するしかできないのが関の山か。
 安易に、遺伝子バンク万能論を素朴に信じていた自分にとって、本書はその間違いを指摘してくれる有能な本だった。