間違った平和論

「日本に平和のための徴兵制を 豊かな民主国家を好戦的にしないために老若男女を問わない徴兵制を提案する」
http://bunshun.jp/articles/-/234

 本論文の趣旨は「先進国で徴兵制を復活させると、徴兵制には戦争忌避の効果があるから、先進国では戦争がなくなるだろう」というものです。

 私はこの論文に疑問を持つのです。

 理由1.徴兵制を排していない先進国の一つたるイスラエルが、その中東アジアであまりにも惨い戦争、紛争を行っているこの国が、それでも戦争忌避に動いていると結論付けられるのかという点。予備役兵の平和活動をその忌避例に著者は挙げています。しかし、その一方でのイスラエルの戦争を何も言及していない。これでは忌避に動いていると言い得ない。

 理由2.次に、
  「青年に共同体への奉仕として軍務を呼びかけ、国民教育の効果を狙った徴兵論も垣間見られる。だが、社会で派兵を決める主要な意思決定集団は青年よりもむしろ老壮であり、教育階層である。老壮青を問わず、富める者も貧しい者も、また男女の別なく徴兵制を施行してコスト認識を変えさせることが、平和のための徴兵制である。徴兵制は兵舎での国民教育や軍人精神共有の場ではなく、戦時には無作為に動員されるものとしての現実味がなければならない。」
という文章について。
 著者の言うように「社会で派兵を決める主要な意思決定集団」が「むしろ老壮であり、教育階層である」ならば、その「コスト認識を変えさせる」ためには、なぜゆえに「戦時には無策に動員される」ような徴兵制でなければならないと結論されるのでしょうか。それならば、徴兵対象は先ず「老壮であり、教育階層」であるべきと思うのである。それが、著者によればコスト認識をしないという老壮に加えて青年も加えての徴兵制度とする、つまり全年代の老壮青とするというのがおかしい。さらに、論理の話ですが、徴兵対象に「富める者、貧しい者」、「男女」の区別もまたなくすべきという点が突如加わっている点もおかしい。

 理由3.最後に、著者の言うように「無作為に動員」をするとなると、真に戦争を反対する者も結果的に動員するということになります。しかしこれは、題名にあるような「好戦的にしない」という目的に反する事態ではないですか。

 なお、以下は補足です。推測ですが、私は筆者が恐らく本当はこう言いたいのではないかと腹底にあるのではないかと思います。つまり、戦争を提唱する者にこそその「コスト」を負担させよ、と。私はその考えそのものには賛成です。しかし、そのための手段として、著者の言うような全国民の無作為抽出徴兵が有効かと言われると私は間違っていると思います。「コスト」を負担する者は提唱者だけでしかなくさないといけないのではないでしょうか。そして、その提唱者以外の者は全く関わらないようにすべきではないでしょうか。
 そもそも、著者の言うような全国民を対象とする無作為徴兵論からは、人間を手段として扱え、という暗黙裡の条件があるように思えます。しかし、兵隊は生身の人間です。その人間には家族や友人等もいます。そういう現実の与条件を著者は無視していないか。平和を唱えつつもその手段は人間を人間として扱わないため、私は著者が誤れると思います。